5万ぐらいじゃね?


何の話かというと、こんな話。


「『時をかける少女』は、口コミマーケティングの『成功例』なのか」(「雷電のチチ」より)
http://d.hatena.ne.jp/gyogyo6/20060803/p1

そうは思えない。だって公開は全国で13館ですよ、これから大きく増える見込みもない。これで成功といえるのか。
比較するのもなんだが、カーズ(吹替版)は308館、ゲド戦記は309館、ブレイブ・ストーリーは262館でかかっている(エントリ日現在。 http://movie.www.infoseek.co.jp/ による)。


時をかける少女』はテアトル新宿をベースにした公開形態でスタートした、いわゆる「単館公開映画」。『王様のブランチ』とかだと「映画興収ベストテン」の枠ではなく、「単館公開映画興収ベストテン」に放り込まれているはずだ(うろ覚え&未見)。
これはもう、あからさまに『ゲド戦記』や『ブレイブストーリー』とは商売の規模が違う。どれだけ製作と宣伝にお金をかけて、どうやってペイさせるかを考えたとき、その方法論のベースが違うわけだ。


現時点の『時をかける少女』の公開中&公開予定館はこんな感じ。
http://www.kadokawa-herald.co.jp/official/tokikake2006/jouei.shtml
36館(数え間違ってたらごめん)。口コミの結果がこれだとしたら、上出来の部類なんじゃないだろうか。


ちなみに、単館公開でもヒットは生まれる。邦画だと『木更津キャッツアイ 日本シリーズ』がシネマライズ渋谷という非チェーンからスタートして、15億円の興行収入を記録した。
木更津キャッツアイ』の公開規模はこんな感じ。
http://www.tbs.co.jp/catseye/jouei/index.html
数えるの面倒くさい……。100館ぐらい?(アバウト)


ただし、『木更津キャッツアイ』はTBSがバックについており、スポットがガンガン流されたり深夜にドラマシリーズの再放映を行うなどのキャンペーンが行われていた。つまり「口コミ」ではない。


また、上記のブログで「口コミ」の例として触れられていた『ブレアウィッチプロジェクト』(たしか日本での興行収入は十数億。正確なデータ求む)は単館公開ではない。現在都内最大のスクリーンと収容人数を誇る新宿ミラノ座でも公開されていた。もちろん、それだけの規模で公開するには、相応の宣伝予算が投入されている。


「口コミ」の事例としては、どちらかというと『アメリ』(興行収入16億。だから正確なデータ求むってば!)のほうが近いかもしれない。この映画も『木更津キャッツアイ』と同じく渋谷シネマライズからスタートして、全国110館程度に拡大ロードショーされた。ただ、『アメリ』の場合は女性誌というマス媒体から火がついていったと記憶している。


時をかける少女』の場合、拡大公開が決定した現時点においても、それほどマスメディアが盛り上がっているようには見えない。アニメ雑誌を見ても、ほとんど取り上げられていない(角川書店の『ニュータイプ』でもあまり取り上げられていないよね)。その作品の魅力を主に伝えているのは、ネットレベルでの「口コミ」がメイン、ということになる。


ものすごーくザックリとした話だけど、『アメリ』が110館公開で16億だとすると、『時をかける少女』は36館だから興行収入は5億円。もちろん、この後DVDやら何やらの収入があるわけだから、十分ペイする金額だと思われる(あくまで想像)。

このままでは見せるべき人の元に届かないまま劇場公開が終わり、年末か春頃にDVDが発売され、限定版が秋葉原で「瞬殺」されるのがニュースになって消費サイクルが終わってしまいそうだ。この映画に関わった人たちはそんな結果で満足するのだろうか。

再び、上記のブログより。消費サイクルの速さは映画界全体にいえること。今、『キング・コング』のことを熱心に語ってる人ってもう少ないもんね。それでスタッフたちが満足してるかどうかはわかんないけど。


「市場規模が大きく違う作品のネットでの評判を同列で見るのはいろいろ見誤るんじゃない?」(「ARTIFACT 人工事実」より)
http://artifact-jp.com/mt/archives/200608/marketnetreputation.html
おなじみ、加野瀬さんのブログより。

公開館数がこれだけ少ないと、『時をかける少女』はこの作品に興味がある人しか見てないので、ネット上では評判がいいという可能性が高くなってくる。
こういった「見られる場所が少なかったり入手するのが難しいために関心のある人しか見ておらず、ネットでは好評ばかり」というのはオタク系だとよく見られた。

ネットは都市型ヒットタイプのコンテンツのような小規模なマーケットの作品のプロモーションや口コミとは大変相性がいい。その作品の出来がよければ、ネット上での評価を高まる。しかし、マスマーケットの作品においては、ネットの評というのはどの程度影響を与えているのかは未知数だ。
ネットの宣伝力は、その時点において、どのぐらいのマーケット規模に対して適切に機能するか?ということを見分けるのが健全だと考える。

「ネットの宣伝力」とこちらもザックリとした物言いだが、その前に引用したパラグラフに書いてあるとおり、ここで述べられているのは要するに「オタク向けコンテンツ」と「ネットの宣伝力」の関係、だろう(マス向けにネットを使った宣伝って、探せばあるんじゃないかなぁ。いや、わかんないけど。わかんないことだらけだよ!←逆ギレ気味)。


で、5万という数字。これは何か?


「酒匂暢彦氏セッションレポート」(「映画ビジネス学部ログ」より)
http://www.schooling-pad.jp/mblog/archives/2006/06/post_11.html
酒匂暢彦氏とは、『ブレアウィッチプロジェクト』や『少林サッカー』を配給した映画会社クロックワークスの社長さん。最近では『涼宮ハルヒの憂鬱』のDVDリリースにも携わっている。

クロックワークスでは、アニメの配給、DVD販売も行っている。
特に最近手がけた「涼宮ハルヒの憂鬱」は、
5万本弱の予約があった。
アニメおたくは、必ずシリーズを買ってくれるため、
確実に売り上げを見込むことができる。
例え一般的な知名度が低くても
(実際教室内で知っていたのは2人だけ)、
5万本というのは5億円興行の映画に匹敵するし、
シリーズ化(8本)すれば40万本規模にもなる大きな収入源である。

ネットでの口コミをベースにヒットした『涼宮ハルヒ』(いつもこの話題でスマヌ)のDVDが5万本。5万本というのは5億円興行に匹敵するという。さっき、おれのザックリした計算で算出した『時をかける少女』の興行収入見込みが5億円。


というわけで、ネットの口コミでオタクコンテンツのために動く(カネを払う)人数は5万! どうだ!


……まぁ、『もえたん3』の帯をみると「シリーズ累計40万部」と書いてあるので、いちがいには5万ともいえないと思うんですけどね。じゃ、この記事は何なんだよ!