人間の性、悪なり
オナニー、エロ、バカの3拍子をモットーとするこの日記で、こんな月並みな話題ではじめるのもどうかと思うが、今日、テレビで日本シリーズを最後まで見てしまった。ダイエー強いね。
でもって、日本シリーズのあとに始まった「日曜洋画劇場」。
今日のプログラムは鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督、ケヴィン・ベーコン主演の『インビジブル』だ。
『インビジブル』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00006880G/249-1078700-0024363
ストーリーはきわめてシンプル。
天才科学者が、人間を透明化する血清を発明。しかし、自分で人体実験を試みた結果、透明になったまま元に戻れず、狂気に落ちていく…。
イエッサー! これだけ。
番宣でバンバン流された主人公が透明化する際のVFXもスゴいし、日本シリーズを見た勢いでそのまま観てしまった人も多いだろう。そして、「なんだ、こりゃ?」と思った人も多いと思う。
「みんなのレビュー」
http://jtnews.pobox.ne.jp/movie/database/treview/re1143.html
公開当時の観客の感想だが、いかにみんなが「なんだこりゃ」と思ったかがよくわかる。
せっかく透明人間になったのだから、スケールの大きい悪事をやってくれ。
透明になったらなったで期待はずれな展開の連続。CG見せたいだけだったら、その手のコンクールにでも出展してくれと。映画舐めてんのかと。
見所は透明に変わる時のCGくらい。透明になってからすることはあほらしいし、何か派手なアクションがあるわけでもないし、ホラーとしても怖くない。いまいちだったなあ。
野心的な科学者ケヴィン・ベーコンが透明人間になって最初にしたこと。それは、憎からず思っている同僚の女性のおっぱいモミモミ! エクセレント!
自分は透明人間、目の前にはグーグー寝てる同僚の女性。男たるものそりゃおっぱいのひとつでも揉むでしょ?*1
ちっとも怖くない。と言うよりセクハラしかしていない。
壮大な野望を持つ透明人間、それを阻止する組織の壮絶なバトルを期待していただけに、のぞきをされたときはがっかりした。
透明化したケヴィン・ベーコンは同僚の女性たちに次々とセクハラを敢行していく。
のぞき、ケツ触り、スカートめくり! エークセレント!*2
まぁそこまではイタズラで済んだ。ところが実験には最終段階で失敗、ケヴィンは透明のまま元に戻れなくなってしまう。
いらだつケヴィン。そして彼のとった行動とは……隣に住んでる色っぽい姉ちゃんをレイプ! 自分を捨てた元カノが男とベッドでイチャイチャしてたら、外から石を放り投げてガラスを叩き割る! 暴走しはじめた主人公を警戒して、同僚たちが組織の上層部に通報しようとする。ならば、その上層部の男を殺してしまえ! グエッ。
特撮がスゴいのはわかるんだけど、「天才科学者」が透明人間になってやることが、アレかい?「俺様は自由だあ!」って言うけどさあ、やってることが陳腐というか、小学生並みの(小学生に失礼かしら)発想で、「やっぱり……」と苦笑した先には何も残らない。透明人間って、きっと、すごく孤独だと思うんだけどなあ。
じゃ何か。あんたは透明人間が部屋にこもってうじうじ悩む映画が観たかったのか?
野望を持った透明人間は世界征服に乗り出さないといけないのか? そっちのほうがよっぽど陳腐だ。現金輸送車を襲って大金を奪う? 奪った大金を透明人間がどうやって使うの?
『インビジブル』の中の透明化したケヴィン・ベーコンの行動は、観ているこちらのハートにジャストフィットする。透明人間の悪事といえば、手近な女の乳を揉む(無差別に揉めないのは、研究施設が隔離されているため。隣の女をレイプしたときも、研究施設をヤケクソで飛び出した勢いで)。気にくわないヤツを殺す。それぐらいでしょ。そしてそれを思ったとおり、やってしまう主人公。そりゃ、透明になった人間の100人が100人、彼と同じ行動をとるとは限らない。だが、監督はあえて行動する主人公を物語に選んだ。そう、「人間の性、悪なり」。
「人間の性、悪なり」とは、劇画原作者・梶原一騎が『ボディガード牙』『カラテ地獄変』『人間兇器』など、強姦拷問浣腸のG2Kに彩られた一連のダーク梶原作品で描きまくったテーマであり、中国の思想家・筍子が唱えた「性悪説」のテーゼである。
「新カラテ地獄変 あしたのためにその壱 梶原一騎大先生の至高の名言集」
http://ya.sakura.ne.jp/~otsukimi/hondat/view/karate1.htm
本題とは関係ないけど、『新カラテ地獄変』の主人公が中出しの瞬間に叫ぶ台詞がこれまたエクセレント。
「法悦境!!」
あと、意外にダーク梶原ワールドについての(楽しい)データベースサイトがないのね。ちょっと驚き。詳しいことを知りたい人は『マンガ地獄変』(水声社・絶版)をお読み下さい。
「孟子と筍子」
http://www.kaiwa-harbin.com/yomoyama/culture/mousi.htm
まぁもちろんハリウッド映画なのだから、最後、ケヴィン・ベーコンは元カノとその彼氏に殺されてしまい、それでメデタシメデタシと終わる。でも、誰がどう見たって主役は暴走するケヴィンなんだから。
「ケヴィン・ベーコン撮影日記」
http://www.spe.co.jp/movie/invisible/diary/index.html
とにかくコイツを片づけなきゃならない。今の僕にとって、『インビジブル』はまさにそんな感じだ。コイツ。これは映画じゃない。怪物だ。莫大な金をつぎ込まれ、手術台から起きあがり、野放しにされてやりたい放題のモンスター。僕らはもはやそいつの主人ではなく、奴隷だ。
ここでは撮影の苦労を形容して「怪物だ」と言っているわけだが、「人間の性、悪なり」のスピリットを高度なVFX技術と卑小なスケールで描いた『インビジブル』こそ、「人間」のありのままの姿を映し出した怪物的傑作である、と本気で思っていたりするんです。
セックスとバイオレンスに彩られたエクストリームな物語を紡ぐふたりの巨匠、ポール・ヴァーホーヴェン先生と梶原一騎先生*3に関しての研究は、各自で行ってください。